我が国の年金財政はどれくらいヤバいか?-いっそのこと「掛け捨て方式」に!

我が国の年金財政はどれくらいヤバいか?-いっそのこと「掛け捨て方式」に!

今回はいつもと趣向を変えて、年金財政の“ヤバさ”をテーマにします。ご存知のとおり、我が国の年金財政は危機的状況です。年金制度のデフォルトを回避するためには、遅かれ早かれ抜本的な制度改革が必要になりますが、その改革は政治的にきわめて困難なテーマです。

だから国は問題を先送りにし、その代わり保険料率を一方的に引き上げ、被保険者の対象をパートにも拡大し、さらには法人への社会保険加入を徹底するなど、あの手この手で保険料の徴収機会を増やし制度の延命措置を図ろうとしています。しかし、いずれもその場凌ぎの“付け焼刃”の対策でしかありません。

といっても、実感が湧かないかもしれません。しかし、マジで年金財政はヤバい状況なのです。そして、この状況は時間の経過とともに悪化していきます。どれだけヤバいかは以下のストーリーをお読みください。

これが我が国の置かれている状況です…




いつパンクしてもおかしくないA氏のストーリー

A氏は都内在住のサラリーマン。A氏には大きな借金があった。その返済額は毎年500万円。残債は1億円あった。一方、A氏が給与から返済できるのは生活を切り詰めても毎年330万円が限界だった。これでは返済額に足りないので、A氏は勤務先には内緒で土日に副業のバイトをしており、そこから年120万円の収入を得て全額返済に回していた。しかし、それでも返済額にはまだ50万円足りていない。なので、これまで子供の教育資金や老後資金のために貯めていた1,420万円の中から毎年50万円を取り崩して返済に充てていた。

借金返済額(年)

500万円

返済原資(年)

給料収入330万円
副業収入120万円
預貯金 50万円

状況は悪くなるばかりだった。ここ数年で給料は大きく下がり、今年もまた下がった。来年以降も給料が上がる見込みはゼロだ。となれば、借金を返済するには次の2つしか手立てがなくなってしまう。

  • さらに副業のバイトを増やす
  • さらに現預金から補填する

しかし、現状でも土日返上で副業のバイトをしているのに、もうこれ以上副業の収入を増やすことは困難だった。いざとなれば現預金1,420万円を取り崩す他はないが、それにしても借金返済額(年)500万円からすると3年分にも満たない金額である。もちろん、今の生活で貯蓄をする余裕なんてどこにもない。

「いったい、この生活にいつまで耐えられるだろうか?」

そんな深刻な悩みを抱えながらも、A氏は現状を変える術を持てずにいた。とにかく目先の借金を返済しなくては。A氏のアタマの中にあるのはこれだけだった。そうして何年もこの生活を続けているのだった…

いかがでしょうか?
このストーリーを読んで、誰もが「遅かれ早かれA氏はパンクするな…」と思ったはずです。しかし、A氏の給料収入を「厚生年金保険料収入」に、副業収入を「消費税」に、現預金を「年金積立金」にそれぞれ読み替えると、このストーリーこそ我が国の年金財政そのものなのです。

簡潔に解説を加えましょう。まず年金受給者に現在支払われている年金額は年間約50兆円です。対して、厚生年金被保険者から徴収している保険料が年間約33兆円。これはそっくりそのまま年金受給者の年金給付に充当されており、右から左に年金受給者に支払われるので積立には回っていません。

しかし、それでも支払われている年金額には17兆円足りません。そこで、その不足分を消費税12兆円と、年金積立金142兆円の中から5兆円補填している状況です。なお、現在の年金受給資格者が平均寿命まで年金を受け取るには約1,000兆円が必要と試算されています。よって、1,000兆円の年金債務に対して年金積立金142兆円なんて鼻クソみたいな額といえるでしょう。

年金支払額(年)

50兆円

年金支払原資(年)

保険料 33兆円
消費税 12兆円
積立金 5兆円

現行の厚生年金保険料率は18.300%です。保険料率については平成29年度の段階的な引き上げが終了しています。よって、いかに国がパート社員に社会保険を適用させようが、「女性の社会進出」という名のもとに被保険者獲得に躍起になろうが、総体的な現役世代の減少を考えると、保険料収入がこの先減ることはあっても増えないことは誰もが知るところです。

その一方で、高齢世代は増加の一途ですから年金給付は増えるばかり。ますます年金給付を保険料で賄うのが難しくなってきます。そうした状況を受けての、平成31年9月の消費税増税(10%に引き上げ)です。

年金財政を改善する選択肢は?

ここでは分かりやすく例示するため簡略化しましたが、これが我が国の年金財政の現状です。ご存知のとおり、我が国の年金制度は現役世代の「保険料」を高齢世代の「年金」として仕送りする「賦課方式」です。

しかし、少子高齢化で現役世代が減り、高齢世代が増えれば、仕送りする「保険料」が減る一方で、受け取る「年金」が増えるのは当然のこと。この先その“乖離額”はますます大きくなりますので、そう遠くない将来に年金財政が“破綻”するのは自明の理です。

ところが、この自明の理に対して、国は何ら抜本的な改革を行うことなく、わずかな保険料率引き上げや年金受給額の引き下げ、それに数%の消費税増税でその場をやり過ごそうとしています。しかし、そんな小手先の対策ではこの問題を解決できないのは小学生でも分かることです。

いかに国が小手先の対策で現行制度の延命を図ろうとも、現役世代の負担できる保険料や増税による税収アップには「限界」があります。だとすると、できることは決まっています。選択肢は2つです。

  1. 年金受給額を大幅に減額する
  2. 現行制度を抜本的に改革する

1.年金受給額を大幅に減額する

年金制度は世代間の助け合いである。現行制度を維持するため国はこう繰り返します。ただし、それは“世代間の公平性”が担保されてはじめて言えることです。元凶は「賦課方式」という制度自体にありますので、この点にメスを入れない限り、この先もずっと保険料を負担する現役世代が損をする構造は変わりません。

2.現行制度を抜本的に改革する

そもそもの問題は老後の生活を国家に依存することから生じています。しかし今となっては我が国に老後の生活を依存できるほどの余裕はありません。否が応でも現役世代には「自助努力」が求められる時代です。

だったらどうすればいいのか?
異論反論はおありでしょうが、ここからは個人的見解です。

もういっそのこと年金は掛け捨てに!

厚生年金は1960年以降生まれは“払い損”です。ココ、重要です。つまり、払った保険料分の年金は受け取れないということ。にもかかわらず、高額な保険料を負担し続けないけばいけない。これが現状です。ならば、いっそのこと、健康保険同様、“掛け捨て”にしてしまった方が良いというのが僕の考えです。“掛け捨て”にすれば、保険料は大幅に下がりますし、国民年金のような一律保険料での制度運営も期待できます。

具体的な制度はこうです。まず現役世代にはこれまで負担した厚生年金保険料については諦めてもらいます。この部分の返還を国に求めても財源がないのですから仕方がありません。そのうえで年金制度は基礎年金だけを残します。さらに厚生年金を段階的に廃止します。この時点で現役世代の自助努力の原資は生まれることになります。企業の負担軽減も相当なものでしょう。その分の賃上げにもつながるはずです。

ただし、その一方で、完全廃止に至るまでの高齢世代に対する年金給付の財源が不足してしまいます。そこで、保険料一律の「掛け捨て方式」の年金制度を新設してそこから財源を捻出します。それでも不足する年金給付分は積立金142兆円やら、消費税増税分やら、特別税やら、補正予算やら、国債発行やらで国に何とか予算を組んでもらう他ありません。完全廃止までの緊急措置です。

いずれにしても、諸悪の根源である「賦課方式」の厚生年金は廃止して「掛け捨て方式」の年金制度に移行します。ここでいう「掛け捨て方式」の年金制度とは損保の【所得補償保険】に近いイメージで、年金受給年齢に達したとき“一定の基準を満たした場合だけ年金を受給できる”というもの。受給要件は「生活保護」の基準と同程度にし、あくまでも年金はセーフティーネットとしての役割にしてしまいます。

つまり、こういうことです。

  • 受給年齢到達時:一定の収入や資産がある → 保険料は掛け捨て → 生活困窮者の年金に充当
  • 受給年齢到達時:一定の収入や資産がない → 生活困窮者 → 年金受給

この方式ですと、本来は国に依存せずとも生活できる高齢者に年金が支給されることがなくなります。年金給付額も劇的に抑制されるでしょう。その代わりに、国からの支援が本当に必要な高齢者にだけ年金は支給されることになります。本来の「相互扶助」に立ち返った年金制度というわけです。

また、この方式なら“年金債務”という考え方自体がなくなります。“世代間格差”もなくなります。高齢世代になっても「働け!」という国の政策とも合致します。いまやマイナンバー制により個人の収入や資産はガラス張りですから受給要件の把握も容易でしょう。

もっとも僕は経済学者でも年金の専門家でも何でもありませんから、このプランが本当に実現可能かどうかは分かりません。それでも僕としては、保険料率改定だの、在職老齢年金廃止だの、受給年齢70歳引き上げだのと、その場凌ぎの詐欺的な制度改正をチマチマ繰り返されるより、この方がよっぽど「納得感」があるのですが、皆さんはいかがでしょうか。

勘違いしてはいけない!

この方式を導入する際には、現役世代にこれまで負担した厚生年金保険料は諦めてもらう必要があります。この点においては国民から相当な反発が起きるでしょうが、それは多くの人が3つの点を勘違いしているからです。(あるいは、国のプロパガンダを信じ込まされているからです)

第一に自分が払った保険料は積み立てられていると勘違いしている点です。我が国の年金制度は「賦課方式」です。よって、現役世代が負担する保険料の全額はそのまま高齢世代の年金給付に回ります。個人別に積み立てられている分は1円もないのです。

第二に厚生年金は「労使折半だから得である」と勘違いしている点です。例えば、毎月10万円の厚生年金保険料を納めなくてはならないとします。すると保険料は労使折半ですから半額の5万円は会社が支払ってくれます。これだけを取り上げて「保険料の半分は会社持ちだから得だ」と考える人が大勢います。しかし、これは大きな勘違いです。

経営者の立場になって考えてみればわかります。会社が支払う5万円は人件費の一部です。当然その分も勘定に入れての、今の給料なのです。つまり「半額を会社が払っている」というのは給与明細上そうなっているだけであって、本質的には全額を本人が払っているのと同じことなのです。

第三に多くの人が「せめて払った分くらいは戻ってくるはず」と勘違いしている点です。結論をいうと、戻ってきません。保険料を負担する人が年々減り続けて、年金をもらう人が年々増え続ける。考えるまでもなく、このような状況で戻ってくるわけがないのです。よって、損得だけでいうと、1960年生まれ以降は“払い損”です。以下は厚生年金の世代別損得勘定です。

出生年 厚生年金 出生年 厚生年金
1950年 770万円 1980年 ▲ 1,700万円
1960年 ▲ 260万円 1990年 ▲ 2,240万円
1970年 ▲ 1,050万円 2000年 ▲ 2,610万円

※ 学習院大学経済学部・鈴木亘教授によるシミュレーション。厚生年金に40年加入の男性、専業主婦の有配偶者がいるケース。生涯収入3 億円として計算。60歳における平均余命まで生きた場合。保険料には事業主負担分も含む。保険料率再引き上げを行うと仮定。

まとめ

年金問題では「制度廃止」「積立方式に移行」「ベーシックインカムの導入」などがよく議論されています。しかしながら、「いずれも実現性の面で難しいのでは?」というのが僕の個人的な感想です。このことから「掛け捨て方式」の年金制度の方が「実現性が高いのでは?」と考える次第です。

  • 制度廃止: 国が「年金」という集金システムを手放すことはない(既得権益)
  • 積立方式: 年金給付分と積立分とで現役世代は保険料の二重払いになる(負担が増える)
  • ベーシックインカム: 本当にベーシックインカムの財源を用意できるのか(膨大な予算が必要)

いずれにしも、です。我が国の年金財政はいずれパンクするでしょう。それが分かっているのに、国に言われるがまま高額な保険料を負担するのはアホらしい。「年金は世代間の助け合い」と言うけれど、それなら今の現役世代を助けてくれる救世主はどこにいるのか。国が問題を先送りしている限り、そんな救世主が現れるわけがない。ならば、こちらも国民として最低限の“義務”のみを果たせばいい。これが僕の本音です。

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神奈川県生。早稲田大学商学部卒業後、大手国内生保から外資系保険会社を経て、平成17年7月に営業支援会社「株式会社おまかせホットライン」を創業。創業以来一貫してダイレクトマーケティングを実践し、DM・FAXDM・WEB媒体を駆使した売らずに売れる「仕組み」の構築を得意とする。そのノウハウを公開する自社セミナーは毎回キャンセル待ちになるほど盛況を誇る。