さて、このエピソードは仔牛のみならず人間にも当てはまります。人間でも仔牛でも、その行動の裏には自分の「欲求」を満たすというトリガーがあるからです。そこで人を動かそうとするには相手の心の中にある「欲求」を見つけて、これに訴えることが必要になってきます。
にもかかわらず、セールスでは往々にしてここで大きなミスを犯してしまいます。
相手の心の中にある「欲求」を見つけないままセールスしようとしてしまうのです。ともすると、営業マンはこの重大ポイントを忘れて営業ノウハウやテクニックばかりに目が行きがちです。しかし、ノウハウやテクニック以前に次を心に留めておく必要があります。
重要なのは(自分が)何を売りたいかではなく、(相手が)何を買いたいか、である。
つまり、見込客を何とかして説得する方法を身に付けるよりも、「それください!」と言わせる方法を考えることの方が100倍重要だということです。営業ノウハウやテクニックはいったん脇に置いて考えてみてください。エマーソン親子と同じ轍を踏まないためにもとても大事なことです。
これまでマーケティングは、販売に関係する全職能の遂行を意味するにすぎなかった。それではまだ販売である。われわれの製品からスタートしている。われわれの市場を探している。これに対し真のマーケティングは顧客からスタートする。
すなわち現実、欲求、価値からスタートする。「われわれは何を売りたいか」ではなく、「顧客は何を買いたいか」を問う。「われわれの製品やサービスにできることはこれである」ではなく、「顧客が価値ありとし、必要とし、求めている満足がこれである」と言う。
実のところ、販売とマーケティングは逆である。同じ意味でないことはもちろん、補い合う部分さえない。もちろん何らかの販売は必要である。だがマーケティングの理想は、販売を不要にすることである。マーケティングが目指すものは、顧客を理解し、製品とサービスに合わせ、おのずから売れるようにすることである。
(By ピーター・ドラッカー博士)